夕木春央『楽園』読書記録

読書

こんにちは。

しろあとです。

今回は読書記録ブログになります。

2026年7月23日発売、『楽園』夕木春央を読んでみました。

過去にもタ木春央作品はたびたび紹介しています。

本作も前作同様、期待を裏切らない内容になっています。

なんだかんだタ木春央作品はこれで3冊目です。

発売日当日に書店へ駆け込み、紙の本をゲット。

展開が気になりすぎて、2日で読み終えてしまいました。

本書を読んで気がついたこと、気になったことを私目線で解説していきます。

概要

舞台はとある閉鎖された村のようなところです。

はじめの1ページ目をめくると、いきなり場面の開設から始まります。

さっそくなので中々面食らいます。

村の主な構成は、中心部に一番の大きさを誇る母屋、その東にそれよりも小さい離れ、さらに東に物置小屋があります。

低地にあり、まわりは急峻な山に囲まれています。

たとえるならばすり鉢です。

すり鉢でいうところの底面に村があり、その周りは山や木々で囲まれています。

母屋の南側に面した土地は畑になっており、自給自足への意識もありそうな感じです。

南側に位置する村唯一の出入口である門はバリケードでふさがれ、登って超えようとするには高すぎます。

この村において1組の男女カップルが、本作の主人公になります。

康之と沙織がこの閉鎖された空間から出る方法はただ一つ。

この村にいる6人の住人のだれかを殺害すること。

いきなりしびれるような舞台設定ですよね。

さすがタ木春央というくらい、謎とワクワクに満ちた序章の幕あけです。

なぜこのような状況になっているかといえば、康之が親の不動産を相続し、その不動産と関係のある人物が突如行方不明になりました。

その人物を探っていくと、行きついたのが本作の舞台です。

康之は旅行ついでに彼女の沙織を誘い、車でその村へ向かいます。

色々と物資を買い込んでその村にいくと、そこは朽ちた農村のような場所でした。

相続した康之は管理人としての立場もあるため、村内をひと通り視察することにします。

物置小屋、離れ、母屋などの建物を中心に巡っていきます。

そこで気づいたのは、明らかに人が生活している面影があること。

マグカップに真新しいコーヒーの水滴があったり、娯楽品がわりと新しめで現代チックだったり、レトルト食品が豊富だったりしています。

「この村には誰かいる?」

そう疑いを強めた2人は母屋へ入っていきます。

すると床が突如開き、6人の人間に囲まれます。

「この6人どこかでみたことがあるような?」

康之と沙織は行きの道中、何気なく指名手配犯のポスターを眺めていた時間がありました。

その指名手配犯がまさに2人の目の前にいました。

指名手配犯らに囚われた2人は、物置小屋で生活することになります。

登場人物

ざっくりと登場人物を紹介していきます。

まずは主人公の2人です。

迫田康之はおそらく30歳前後の男です。

昔から真面目な性格でしたがやりたいこともなく、仕事は収入を重視して東京でコンサルをしていました。

しかし数年前、両親が交通事故で死亡し、保有していた不動産をすべて康之が相続することに。

家賃収入だけ生きていけるようになりFIREとなった康之は、地元にゆかりにある静岡に拠点を移し、自身がもつ不動産の管理をして毎日を過ごしていました。

亡くなった両親が懇意にしていたのが、老婦人の海原早苗です。

両親が持っているマンションの一室を借りていました。

両親からの流れもあり、康之は海原とも盛んに交流するようになります。

海原の住む自身の不動産マンションの一室に引っ越してきたのが、沙織です。

沙織も康之と似たようなキャリアで、学生時代を東京で過ごし、前職は東京で観光会社に勤めていました。

転職で静岡の文房具会社にやってきます。

たまたまタイミングよく2人はマンションの廊下で出会います。

越してきたばかりで土地勘のない沙織は康之を頼っていきます。

会ったその日にいきなり食事に行きます。

そして何回か食事を重ねるうちに交際へ発展し、付き合って1年が経つという関係性です。

海原早苗はかつて康之の両親と交流があったようだが、故人となった両親に代わって康之とも交流が盛んになりました。

海原はある日突如、書き置きを残して失踪します。

失踪した海原の家で見つけたのが、この謎めいた閉鎖された村でした。

その村で突如現れたのが6人の指名手配犯。

それぞれの名前は正確には忘れてしまいしたが、人物像だけご紹介します。

指名手配犯の性別は男5人、女1人です。

まず一番のリーダー格っぽい男がいます。

ガタイがよくて肉体派です。

罪状はバカにされたことでカッとなり、殺人を犯しています。

そしてその男にくっつく男がいて、甲高い声とナヨナヨした身体が特徴で、恋愛対象は同性の男です。

リーダー格とこの男は肉体関係があるようで、できています。

あとは芹澤という中年男、山田という60歳をとうにすぎたと思われる老人がいます。

まったくしゃべらない男が三國で、声がひしがれて出ないため、筆談でコミュニケーションを取ります。

宮野は唯一の女性で60代くらい。

罪状は放火です。

さて、この6人が床の下から急に現れて、2人を物置小屋に監禁することになります。

あらすじ(※ネタバレ含む)

指名手配犯6人はこの土地にガッツり根付いているように見受けられます。

話によればこの6人は長期にわたってここに潜伏し、逮捕されないよう息をひそめながら生きているとのことです。

しかし、どことも交流せずにこの地で長く住み続けることは不可能です。

そこで6人のスポンサーになっていたのが、海原早苗でした。

海原が定期的にこの地に訪れ、大量の食品や生活用品を調達していたのでした。

こうして指名手配犯だらけのこの楽園は、生き延びてきたわけです。

康之と沙織は海原失踪の事実を6人に伝えます。

しかも海原が、ほぼほぼ自決していることもほのめかします。

海原を慕っていた6人は大きく落胆。

加えて重要なスポンサーを失ったわけですから、これからの生活を憂慮します。

残された選択肢は多くはありません。

6人が外の世界に出て食料を買い込んでしまえば、あっという間につかまってしまいます。

かといって2人に海原の役割を任せようとしても、警察に駆け込んで事態が発覚してしまいます。

ここで6人と2人は交渉に出ます。

その内容とは、指名手配犯6人のうち誰か1人を康之と沙織が殺すこと、殺害現場を撮影して証拠を残すこと、それができたら2人は外の世界へ解放されること、解放後は海原の役割を担うこと、もし警察に駆け込むようなことがあれば殺害映像を暴露すること。

これら条件で双方は合意に至ります。

そこで最初の1ページの場面へと繋がっていきます。

康之と沙織はスマホ等の通信機器をすべて没収、コテージに泊まる用に持ってきた物品も没収、門は6人によって頑丈に塞がれてしまい、この楽園からは出られません。

ひとまず康之と沙織は脱出するべく誰を殺すか、どうやって殺すかを思案することになるのでした。

なかなかカオスな状況ですよね。

シチュエーションを聞いただけで、ぞねっと身震いするような極限状態です。

まずは住人6人の人物調査から始めることにします。

村の中を探索しつつ、遠目から住人の様子をうかがっていきます。

住人は仲良し6人組というわけではなく、それぞれ別行動するのが基本のようです。

そんな中、最初の殺人が起こります。

芹澤という住人の男が何者かに殺害されます。

しかし住人は特段、驚く様子はありません。

指名手配されているだけあって、このような凶事には慣れっこのようです。

死人が出たら、土に埋めるというのがこの村の慣習のようですが、今回は様子が違います。

なんと康之と沙織の2人が拠点とする物置小屋近くに遺体をそのまま置くことにしたのです。

残された住人5人の意図は、

「芹澤の遺体を使って殺人の練習をしろ」。

なかなか殺害に踏み切ろうとしない康之と沙織に焦りを生じた住民5人からのメッセージではないかと思うようになります。

かといって殺害した犯人はわかりません。

何しろ殺害のメリットがないわけですから。

康之と沙織が殺害している決定的な動画証拠がなければ、外部からの食糧や日用品の供給が途絶えてしまうわけですから、2人には早いところさっさと殺害を実行してほしいと考えています。

遺体で殺害の練習をすれば、本番も実行しやすくなるというわけです。

しかし、練習すら2人はなかなか着手することができません。

ただただ時が過ぎるだけです。

そんな中、動きがあります。

外に放置されていた芹澤の遺体が損傷しているのです。

誰かが練習したのか、それとも別の意味が込められているのか。

真相は不明ですが、殺害にしる遺体損傷にしろ、康之と沙織はアリバイがあって容疑者からは外れることになります。

殺害の他に遺体損傷の謎まで抱えることになった康之と沙織は、再度、頭を抱えることになりました。

そして次の動きがあります。

また殺害です。

リーダー格の男が殺害されます。

母屋で泡を吹いて横たわっているところを発見されました。

死因は毒殺のようです。

リーダー格の男が必ず毎日2杯のコーヒーを飲むことを利用した殺害です。

残された住民4人はまたしても驚くことはありません。

指名手配犯にとっては、それほど死が身近にあるのでしょう。

現場検証らしきものが始まり、アリバイの確認をすることになるのですが、康之と沙織は布団を手洗いで洗っているところを住人に目撃されているため、この時も運よく容疑者から外れることになります。

2件の殺害、遺体の損傷。

ここで康之はあることに勘づきます。

「沙織がやっているのではないか!?」

疑いの目を沙織に向けます。

沙織にカマかけてみますが、すぐに見抜かれて不機嫌をなり、気まずい距離感になります。

でもそんなことを気にかけている場合ではありません。

いよいよ住民4人にも、次は誰が殺害されるのか、早く康之と沙織に殺害動画を撮ってもらって生活を成り立たせてもらわないとと焦りが生じてきます。

沙織は声の出ない三國が銃を所持しているのを目撃していました。

生殺与奪を握られないためにも、康之と沙織は三國を殺害することに決めます。

眠りの深い明け方を狙って2人で三國を襲います。

康之は三國の腹部を刃物でめった刺しにします。

抵抗する三國の手足を沙織が押さえてアシスト。

2人の連携によって無事に既遂します。

最後の仕事が済んだのも束の間、2人は互いに考えていたことを思い思いに伝えます。

康之が思っていたこと。

それは、これまでの殺害がすべて沙織の手によるもので、住民6人全員を皆殺しにしてこの村を出ることではないかということです。

その仮説を康之は沙織にぶつけます。

しかし沙織からはそんな仮説がかわいく思えてしまうくらいの、どでかい告白がありました。

それは沙織の両親が、沙織が小学生の頃に亡くなったことと、海原早苗の関係についてから整理する必要があります。

海原には息子がいました。

名前は宏です。

そして、この村には宏の私物と思われるフィギュアやプラモデルが母屋や離れにたくさんありました。

実は宏の手によって沙織の両親は亡くなっていたのです。

息子は警察から逃げて指名手配されることになります。

我が息子をなんとしてもかばいたい海原は、この村に目をつけます。

世間から隔離させ、足繁く海原が通うことで生活を成り立たせていました。

しかし宏1人での生活は味気ないものです。

そこで海原は全国に散らばっている指名手配犯にネット上からアプローチをかけ、1つのリアルなコミュニティをつくることにしました。

それで集まったのが住民の6人です。

宏は結局、亡くなってしまうのですが、コミュニティは依然維持されたままです。

愛着もあった海原は継続して、村に物資を届ける役割を担い続けていたのです。

沙織は両親を殺した宏の親である海原に復讐を決意します。

海原の元へ向かい、沙織は話をしようとしますが海原と揉めて、その場で殺害します。

その殺害現場は康之が管理している家の近くでした。

村に軟禁されてから、スマホに届いた外部からの連絡に返信しないのも違和感があるため、康之と沙織は住民全員の前でスマホチェックタイムが設けられていました。

康之への連絡の1つの中に、沙織にとって不都合な事実が含まれていたのです。

沙織が殺害した現場のすぐ近くに、防犯カメラが設置されていたことを連絡の中から知ります。

この村を出た後には、沙織が殺人犯ということが防犯カメラでわかってしまいます。

そのため、沙織は殺人犯としてこの村で一生を過ごすことに決めたのです。

できるだけこの村で快適に過ごせるように、沙織は色々と頭を働かせます。

まず、沙織にとって不快な人物を消し去ろうと考えます。

リーダー格の男は、以前、海原が集めた指名手配犯のうち、人一倍素行が悪くて秩序を乱したある男を始末した功績があり、それ以来、離れを個人部屋として分け与えられていました。

個室が欲しい沙織は、トリックを用いてリーダー格の男を毒殺しました。

食べ方の汚い人間が嫌いな沙織は、食べ方が汚かった芹澤も殺害します。

こうして村の人間を間引いたところで、次にやるべきことは康之への口止めです。

康之への既成事実を作るべく、三國を襲わせたのです。

三國殺害の現場を、沙織はドライブレコーダーで撮影していたのです。

もし康之が外部と通謀して沙織の悪事を明かそうものなら、康之も道連れという算段です。

こうして沙織は村の住人の仲間入り、康之は海原の後継者となりました。

沙織はさらに驚愕の事実を次々と告白します。

沙織というのは偽名であること、過去に結婚歴があったこと、東京で観光開発会社に勤めていた。

そうです。

この女は、絲山麻衣(いとやままい)だったのです。

夕木春央作品の『方舟』で地下室に閉じ込められ、全員を騙して生き埋めにして1人だけ助かりました。

次の「十戒」では観光開発会社でとある島に赴き、島ごと爆発させて生き延びました。

またあの女が暗躍していたのです。

こうして沙織?は自分の楽園を手に入れて安住するのでした。

今作もさすがの場面設定とオチだったと感嘆しました。

最初の50ページくらいのワクワク感とテンション上がり具合は、もう最高です。

しかし、方舟と十戒が良すぎたのか、楽園は気がかり箇所が私には目につきました。

まず中盤の中だるみは、正直うんざりしました。

芹澤が殺害されるまで、ダラダラしていて飽きます。

村の中をただひたすらに散策し、康之があれこれ考えをめぐらすのですが、何ひとつ話が先に進まなくてイライラすら感じました。

リーダー格の男が毒殺されてからは、すごいスピードで話がまわり始めたので、それまでがしんどいです。

そして康之が女々し過ぎてイライラする方も多いのではないでしょうか。

自分の意見を主張せず、いつも人任せ他人まかせ、責任感のない女々しい男だと感じました。

正直、こいつの回想シーンで中盤の中だるみが生じていました。

考えても仕方のないことをずっと考え続け、いつまでも殺人に踏み切らず、結局、沙織の手の上で踊らされているわけです。

まあストーリー上、沙織>康之というヒエラルキーにする必要があるため、あえてポンコツにしたのだろうと思いますが、読み進めるたびに康之の優柔不断さが鼻についていました。

やっぱり衝撃的だったのが、沙織です。

またあの女が結局登場するわけです。

今作は私もだいぶ警戒して読み進めていました。

またあの女だろうと。

ただ新刊を手にすると、一度新しい真っさらな状態で読み進めてしまうので、真新しく感じて意識が薄れてしまうんですよね。

どうせ出てくるだろう、いや出てこないか。

こんな葛藤もありつつ、やっぱり出てくるんですよね。

毎回このサイコパス女が出てくるので、夕木春央作品を読むたびに女性キャラが真犯人なのではないかと疑ってしまう体質になってしまいました。

どの作品を読んでも、まずは女性の発言や挙動を精査してしまいます。

ストーリー的には、本作『楽園』が最終章になるのでないかと思います。

村の中で殺人し、村の外でも殺人したわけですから、これから世間に追われるため、表の世界に出てくることはできないでしょう。

一生、村の中に隔離されるため、彼女が出てくる物語を作れないのではないでしょうか。

もしかしたら、この村をうまく抜けて顔も名前も変えて、再起を図る次回作もちょっと期待してしまいます。

彼女の過度なサイコパス性から察するに、そんな世界線も十分考えられます。

前々作、前作ほどではありませんが、本作も十分に楽しめる作品だと思いました。

ぜひ手に取って読んでみてください。

しろあと

コメント

タイトルとURLをコピーしました