しろあとです。
今回は読書感想会です。
「方舟」に続くタ木春央の傑作『十戒』を読んでみました。
夕木春央といえば、2025年に最も売れたミステリー小説としての触れ込みで有名は『方舟』の作家さんです。
私も以前、読んだことがあります。
狂った状況や場面設定によるドキドキハラハラ感といったら、すさまじいものがありました。
それに続く作品が、今回の十戒です。
結論からいいますと、本作も最高でした。
登場人物
大室里英
本作の主人公的な立ち位置。
美大を志す浪人生。
年齢は二十歳前後。
父
里英の父。
大室修造
里英の伯父。
父の兄にあたる。
若くしてトレーダーで資産を築き、悠々自適な暮らしを送っていたが、先日、不慮の交通事故で故人となる。
沢村
日陽観光開発株式会社。
修造が所有していた和歌山の離島・枝内島のリゾート開発の件で、里英の父と接点を持つようになる。
綾川
日陽観光開発の研修社員。
草下
草下不動産の社長。
リゾート開発の件で枝内島に同行。
野村
草下不動産の設計士。
シングルマザー。
藤原
羽瀬蔵不動産株式会社。
リゾート開発の件で枝内島に同行。
小山内
羽瀬蔵不動産株式会社。
リゾート開発の件で枝内島に同行。
矢野口
伯父の友人
物語は故人を除いた9人で進んでいきます。
物語のあらすじ ※ネタバレあり
里英の伯父である修造が急死したことで、彼が所有していた和歌山県にある離島・枝内島は里英の父のものになります。
この枝内島にリゾート開発の計画が持ち出され、不動産屋や開発業者などの関係者が里英の父に接近し、視察のために1泊予定で枝内島に行くことになります。
里英は気晴らしも兼ねて父につきそうことになりますが、そこで思わぬ事件に巻き込まれていくことになります。
島内には居住スペースである別荘、伯父がよく利用していた作業所、作業所を囲うように5~6個のバンガローがあるだけです。
枝内島に到着した一行は、まずは別荘に寄ることにします。
立派な別荘なのですが、里英は異変に気がつきます。
もうしばらくの間、放置されていた別荘なのに、所々に新しさがあって人が生活していた気配があるのです。
最近出たであろうゴミ、使用感のあるベッド、発電に必要な油が新しいなど、生活感が溢れているのです。
別荘を後にした一行は、島内を散策することにしました。
とあるバンガローに立ち入ってみると、何やら土嚢のような袋が大量に積まれているのを発見します。
なんとこれら全ては爆薬です。
近くにはスマートロックが配置されており、スマホから遠隔でいつでも爆破できるようになっています。
一行は警察に通報することを考えます。
しかし里英の父は、気がかりが浮上します。
「もし兄貴が爆薬づくりなど犯罪行為に関わっていたら」
そういった想いから警察への通報を躊躇います。
時は夕暮れ時ということもあり、離島から警察を要請したところで到着は明日になると予想し、 結局、明朝に警察を呼ぶことになりました。
翌朝、一行が目にしたのは、崖下に横たわっている小山内の遺体です。
背中にはクロスボウが撃ち込まれています。
遺体だけならまだしも、別荘の入り口にとあるメモ書きが一行を驚愕させます。
このメモこそが、タイトルにもなっている「十戒」なのです。
メモに書いてある内容は以下のとおりです。
- 3日間、島の外には出てはならない
- 島外に殺人の発生や島の状況を伝えてはならない。当然、警察への通報も禁止
- 家族や関係者に帰宅が遅れることを怪しまれないように伝える
- 通信機器を所持してはならない
- 島外との連絡は、みんなの目の前で行う
- 複数人が30分以上に渡って同席してはならない
- カメラ等で録音録画、記録をしてはならない
- 各人、1人部屋が割り当てられる
- 島外への脱出や指示の無効化を試みてはならない
- 犯人が誰なのか見つけたり、告発してはならない
なかなか絶望的なルールですよね。
特筆すべきは10番目です。
犯人探しが禁止されており、もしこれら十戒を破ったら島ごと爆破される可能性すらよぎります。
十戒を突き付けられた8人は、犯人の言いなりになり、何事もなく時が過ぎて島から脱出できるまで待つことになります。
十戒を厳密に遵守するために、8人はいろいろと工夫を凝らしていきます。
家族や関係者へ帰りが遅くなるのを伝えるために、別荘の食堂でスピーカーフォンを使ったり、送信したメッセージをみんなに見せたりなどします。
スマホ等の通信機器を利用し終えたら、一つの袋に全員のスマホを入れます。
そして全員の署名が入った紙でホチキス留めして封をすると、動かすと必ず音が出てしまうソファ2台の間に袋を入れて封印しました。
さらに、犯人の意向を正確にうかがうため、あるいは犯人のご機嫌を損ねないようにするため、こっくりさんを導入します。
中が見えない袋を2つ用意し、片方には貝殻と石が混在しています。
ある質問に対して、YESと回答する場合は、貝殻を別の袋の中に移動させます。
この作業を全員分やることで、もし犯人がYESと思わないことがあれば別の袋に入っている貝殻は人数よりも1つ少ないはずです。
貝殻は外から見えない袋に入っているため、貝殻を取るフリだけすることも可能です。
そして別の袋に貝殻を移すときも、握ったこぶしをそのまま入れて中で貝殻を離すフリをすることができます。
これで犯人のご意向をいつでもうかがえるようになります。
里英は前日、同部屋であった綾川と自然と行動を共にするようになります。
綾川は大室家の2人に対して信頼を置き、いろいろと犯人を炙り出そうと奔走します。
そんな最中、翌朝に次の殺人が起きます。
伯父の友人である矢野口が、作業部屋前にて遺体で発見されます。
そしてまたしてもメモ書きが残されています。
メモ書きには矢野口の遺体をブルーシートでまとめるだったり、犯行現場までの足跡を消させたりなど、殺人に関する証拠を隠滅させようとする指示が中心です。
例のごとく、十戒に忠実に従った7人。
ひと通りの作業を終えた後、念のためこっくりさんで犯人の意向を聞いてみます。
ここで思わぬ展開が。
これまで何度もこっくりさんをやった結果、まったく異論がなかった犯人が、ついに難色を示したのです。
その内容とは、矢野口をブルーシートで縛ったときの縛り方が不服とのことです。
犯人の機嫌を損ねて島ごと爆破されてはたまったものではありません。
すぐさま縛り方を簡単なものに変えます。
再びこっくりさんで犯人からの承諾を得ます。
連続殺人となり、互いが互いに疑心暗鬼となる中でも、夜はしっかり来ますし、しっかり明けま す。
翌朝、また犠牲者が出てしまいます。
まさに人狼ゲームかのように、朝が来るたび誰かが被害者となっていますね。
3人目の犠牲者は藤原です。
しかし今回の殺人は、これまでとだいぶ様相が違います。
まず遺体の場所ですが、作業小屋の前にある地下室にありました。
しかも遺体がバラバラにされていて、地上からは切断された足のみが見えています。
そしてまたしても別荘の中にメモ書きがおいてあります。
この最後のメモ書きがめちゃくちゃ長いのです。
ざっくり意訳して列挙していきます。
- 藤原は脱出を試みたため殺された
- 遺体は地下室でバラバラになっているが、まだ処分しきれていない
- 犯人が今から遺体を処分するから地下室には立ち入らないこと(犯人だとわかる証拠があ る?)
- 犯人をわからないようにするため、ただ今より行動を制限する
- 全員、別荘の自室に戻って過ごす
- カーテンと雨戸を締め切りにし、決して外を見たり出たりしてはいけない
- ある者が部屋から出ずにドアを開き、その状態でしばらく待つ
- 扉を閉める音がしたら、しばらくして次の者が同じ行動をする(この間に犯人は外に出て遺体を処分)
- 目安の時間になったら犯人はインターホンを連打する
- 連打があってから一定時間経過したら、ある者から順にシャワーを浴びる
- シャワーは20分以内に済ます
- 前の者が帰ったら、次の者がシャワーを浴びる
- 全員のシャワーが終えたら、犯人が外出していた時間と同じ時間、自室内で過ごす(この間、犯人は玄関に置いて録音モードにしていた矢野口のスマホを使って、異変がなかったチェックする)
- ここまでの行程をすべてこなしたら、明日、無事に帰宅することができる
メモ書きは以上です。
これでもだいぶ省略しました。
他にも細々かつ長々とメモがありました。
犯人を含めた6人は、律儀に犯人に従い、無事にすべてをこなします。
犯人がスマホチェックを終えると、みんなはなんとなく食堂に集まってきます。
ここで、これまで里英と行動を共にしていた綾川から、推理ショーが提供されます。
しかし十戒によれば、犯人探しはご法度のはず。
ただ綾川によると、ここで犯人を特定する話をしたところで、この島は爆破されないとのことです。
綾川の推理によると、犯人は藤原とのこと。
しかし藤原はすでに殺害され、地下室でバラバラになっているはずです。
一体どういうことか。
綾川によれば、地下室の遺体は、実は矢野口の足を切断したものであって、地下室の上から覗いただけでは藤原の胴体部分しか見えず、顔はわからなかったとのこと。
つまり、上から見たときの角度などを緻密に計算し、矢野口の胴体部分を藤原のものと誤認させ、 当の藤原本人は島内に潜伏しているか、あるいはすでに脱出しているのではないかとのことです。
そのため、別荘の一室でこのようにコソコソ話しているだけなら、藤原は爆破スイッチを押さないはずだというのです。
なるほど、なかなかこの犯人は、いい推理するな。
そういうふうに私は思いました。
そうなのです。
今、私が書いたように、この事件の犯人は綾川なのです。
実は、綾川が藤原を含め3名とも殺害したのです。
元をたどると、なぜこの島は爆弾島であるのかという疑問があります。
綾川は定期的な外部との連絡タイムの時に、すでに亡くなった矢野口のスマホをとあるトリックで盗んでおり、そのやり取りの中で藤原や小山内らと、何やら爆弾に関するやり取りをしているのを把握していました。
テロに関与しているのか何なのかは不明ですが、故人の所有物である枝内島は、爆弾の開発や実験、管理には都合のよい場所です。
この3人がグルである以上、いつ爆破されてもおかしくない状況は、常に付きまといます。
そんな不安を払拭すべく、綾川は殺害を続けたのです。
さて、時は少し戻り、綾川による藤原犯人説が周知された後、残された6人はこれまた律儀に最終日の朝を待ち、スマホから救援を要請します。
到着した船に全員で乗り込み、急いで島から離れるように船員へ申し伝えます。
実は物語のだいぶ序盤から、里英には犯人が誰かわかっていました。
そんな里英と綾川が自然と船上で近くなり、真犯人解明、というか開示の場面になります。
綾川は爆弾があるのにも関わらず、不穏な動きをする小山内に目をつけてクロスボウで殺害し、崖に投げ捨てます。
そして犯人を詮索している矢野口も殺し、さらには藤原も殺害します。
これらの殺人の中で、綾川はスマートロックを解除できるスマホ、つまりは起爆装置を回収しています。
本当ならば藤原犯人説のまま行きたいところでしたが、里英には真実が見破られていました。
というのも、初日に部屋の数の都合で同室だった綾川と里英ですが、夜になっても里英はまったく寝れず、ずっと目を開けたまま外を眺めていました。
そんな中、窓の外にはクロスボウを持った里英がいるではありませんか。
里英はよく眠れて気がつかなかったふりをしていました。
だがそこからというもの、綾川の発言の全てが里英にとってはカマをかけられているように感じていました。
里英は綾川が犯人ということをずっと分かった上で、これまで立ち回っていたわけです。
ちなみに最後の最後で、衝撃の事実が判明します。
実は綾川は既婚者であるものの、夫は行方不明となっているそうです。
この設定はどこかで聞いたことあるような。
そうです。
前作『方舟』の真犯人、絲山麻衣です。
衝撃なことに、綾川と絲山麻衣は同一人物なのです。
方舟で全員を出し抜いて生き残った麻衣が、旧姓に名を変えて、観光開発会社の研修社員として枝内島に潜り込んでいたのです。
感想と所感
本作も驚きの連続で最後の1ページまで楽しむことができました。
私は読後も、綾川と麻衣が同一人物ということに気がつけず、巻末にある解説文を読んではじめて理解しました。
その時の衝撃っぷりったらすごかったですね。
方舟で麻衣が発する印象的な言葉を、十戒のラストでも綾川が発しているようなので、勘のいい人は気がついたのだと思います。
私は方舟を読んだのが結構前でしたので、わからなかったですねえ。
ただあの麻衣ならば、本作のようなことを平気でするでしょうね。
即座に配線を切り換えて映像情報を誤ったものにし、夫を含め全員を殺してそのまま生き埋めにした女ですからね。
物語
としてはとても面白かったのですが、いくつか気になる点もありました。
まず女である綾川に、3人の殺害と遺体の処理は不可能だろうという点です。
クロスボウで不意打ちはうまくいくこともあるでしょうが、それでも被害者から抵抗か何かあったはずです。
遺体をバラバラにするのだって、かなりの重労働でしょう。
その後の地下室の証拠隠滅は、遺体をボートで運び、海に捨てるというものでした。
遺体処理からのボート操縦からのシャワーという流れです。
いくらなんでも体力おばけ過ぎます。
身体的体力だけでなく、知的体力もおばけすぎます。
あの短時間で十戒を思いつき、その後、何も怪しまれることなく全員を操作しきったわけですから、相当なキレ者です。
結局、地下室の証拠隠滅は上手くいったかどうか、綾川本人も懸念していました。
そこで船上にて里英と相談し、島から十分距離を取ったところで、手元にある起爆装置付きスマホをスライドさせ、島もろとも爆破させて証拠隠滅を遂行します。
島は次々と爆破され、火や煙が遠目にも確認できます。
綾川はさりげなくスマホを海に捨てます。
その様子を里英は、ばっちり見ていました。
このようにして、枝内島は消滅、事件の真相も闇の中ということになりそうです。
また、綾川が遺体を処理するために全員を別荘内に監禁したところも、正直出来すぎな感じがします。
犯人が作業のために外に出たときも、わずかに雨戸を開けて誰が犯人か確認することもできたはずです。
それに各人に課せられた緻密な行動と時間管理は、なかなかの負担であり、いつ失敗してもおかしくありません。
シャワーを浴びる時間なども前後しそうで、読んでるこちら側もハラハラと同時に、無理がないかと思っていました。
さらに爆弾に関しては、やはり謎が残ります。
なぜ作っていたのか、その目的がイマイチピンときません。
それと人物に関する印象が薄いと、強く感じました。
私は読んでいる最中、明確に識別できたのは里英、里英の父、伯父、綾川、野村、矢野口くらいでした。
藤原、草下、小山内、藤原に関しては、エピソードがなさすぎて最後まで誰が誰だが判明しませんでした。
とはいっても、やはり本作は秀逸です。
なんといっても犯人を探してはいけないというのが斬新すぎます。
たいていのミステリー小説は探偵役が出てくるものですが、それすら許されないわけですからね。
そして面白いのが、電波がビンビンであるにもかかわらず、外部と連絡が取れないということです。
この手のミステリーはだいたい、電波の届かない離島や地下であることがほとんどです。
あるいはバッテリー切れやスマホ故障なんてこともあるでしょう。
電波はあるし、定期的に封を破ってスマホを取り出し、外部と連絡しているのにも関わらず、本当の意味で外部と繋がれないというのは面白い設定です。
なんといっても前作「方舟」の犯人と同一人物が、本作の犯人というところに度肝を抜かれました。
ちなみに私が読んでいたときの推理によると、一番怪しかったのはやはり綾川でした。
妙に機転が利くというか、勘がいいところがずっと引っかかっていました。
前作でも真犯人は女でしたし、夕木春央作品は女が真犯人というのが平気で起こると心得ていました。
それと同時に「探偵役は犯人にならないのでは?」という疑念もずっと付きまとっていました。
方舟では主人公の親戚が探偵役を務めていたと思いますが、彼は犯人ではありませんでした。
そのため十戒でも、探偵役っぽくなっている綾川が犯人ではないのではないかと思っている節もありました。
次点で怪しいのが里英の父ですね。
実は兄貴と何らかの遺恨があり、その関係者をもろとも殺害しようとしている気がしていました。
逆に犯人ではないと確信していたのは、野村と矢野口です。
野村は作中でノイローゼ気味になっていました。
こういう時に体調が悪くなったり、エネルギーが枯渇していたりするような虚弱キャラは、被害者にはなり得るものの、加害者にはなりにくい傾向にある気がします。
そして矢野口のような陽気なチャラ男キャラも、犯人にはなりにくい気がします。
里英の伯父の友人ということだけあって、なかなかの自由人である矢野口はブランド物に身を包んでいて、独身貴族を謳歌していました。
こういう人物は殺害の動機が見えてこないため、犯人として取り扱いづらいのではないかと思います。
次回作が待ち遠しい限りですが、果たして次回作はあるんでしょうか。
次回作が出ても、「どうせ麻衣、綾川が犯人だろ」という心持ちで読んでしまいそうです(笑)
映画化も十分視野に入ってくる面白さと話題性です。
とても楽しい時間を過ごすことができました。
ぜひ手にとって読んでみてください。
しろあと


コメント