夕木春央『方舟』のコミック版を読んでみた

読書

こんにちは。

しろあとです。

今回の記事は書評シリーズ。

しかも前記事とつながりがある作品です。

読んだのは『方舟』です。

ですが、ただの『方舟』ではありません。

コミック版を読んでみました

マンガの感想をブログにしたのは今回が初めてになります。

夕木春央の小説『方舟』があまりにも良かったので、テンションの高ぶりを抑えきれず、いてもたってもいられなくなった私は、いろいろと調べものをしているうちに、『方舟』がコミカライズされている事実を知りました。

「あの方舟がマンガで描かれる・・・!」

そう考えただけで、気持ちが昂ります。

さっそく『方舟』のコミック全3巻をポチって、読んでみました。

あらすじは前回記事を参照してもらえれば幸いです。

簡単にいうと、究極のトロッコ課題です。

1人を犠牲にして大勢を助けるのか、犠牲を出すことを嫌って全員で共倒れになるのか、つまるところ、このような思考実験を作品として描いています。

読後所感

コミック版も最高でした。

全3巻しかなかったので、

「あの超大作をたった3巻で書ききれるのか?」

「最低でも5巻はいるだろ」

そんな風に思っていました。

でも全3巻できれいに終われています。

映画化やアニメ化したときによくあるような、原作と全然違う問題もクリアしています。

原作に忠実に描かれていて、そのあたりの心配もまったくありませんでした。

絵として『方舟』を見渡すと、より作品の解像度が高まります。

まず、登場人物ですが、想像よりもみんな若かったです。

若いというより、幼いタッチでした。

まあマンガである程度売り上げを見込むならば、大衆受けするようなキャラ設定にしなきゃだと思うので、男はイケメン、女はかわいく描かれるのだと感じました。

特に翔太郎のイメージが意外でした。

原作では、冷静沈着、余裕たっぷりの理論派で、推理役を買って出てくれていた彼。

マンガでもその役割に変化はありませんが、ちょっとだけ無職キャラが押し出されているのです。

もともと叔母から莫大な遺産を引き継いで、地質学の研究をしたり、海外にいって何百万円も増やして帰ってきたりなどしていた彼ですが、マンガではその自由人っぷりが描かれています。

しかも、顔立ちもイケメンでチャラチャラしてる感じなのです。

原作では、ザ・探偵といった人物像を想定していたので、そのギャップを楽しめました。

そして、地下建築内の構造がとてもよくわかる!

コミック化一番の利点は、地下建築の間取りや構造が目で見てわかりやすいことだと感じました。

いわゆる館(やかた)ものの作品は、視覚化と相性がいいみたいですね。

蓋を開けて地下に入り、鉄扉までの道のりや、鎖でぐるぐる巻きの大きな岩の様子などがとてもよくわかりました。

特に一番納得がいったのが、大きな岩と巻き上げ機がある小部屋の位置関係です。

小説だけだと、地下1階と2階が鎖でつながっているというのが、どうにもイメージしづらかったのが正直ありました。

また地震で鉄扉を塞いだ大きな岩が、どう動いて地下2階に落ちるのか、視覚化されたことによってその原理がよくわかりました。

このあたりのイメージしにくい描写が、私の中で腑にすとんと落ちました。

そしてクライマックス。

犯人を当てるシーンからの、犯人の想定外な犯行動機、衝撃的なラスト。

このあたりの疾走感がなんとも心地いいです。

絶望的とは、まさにこのことです。

柊一以外の5人は意気揚々と出入口からの脱出に向かいますが、出られない事実に直面し絶叫。

ちょうどそのタイミングで発電機のバッテリーが切れ、真っ暗闇の中に。

あとは迫りくる水位に怯えながら溺死を待つだけ。

絵で表現されると、絶望感がよりリアルに刺さります。

コミック版を読んでみて、改めて超良作だと感じました。

巻末にタ木春央『十戒』のコミカライズが2025年に始動するとありました。

まだ『十戒』は小説を読んでいないので、これを機に挑戦してみようと思います。

しろあと

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