こんにちは。
しろあとです。
今回の記事は書評シリーズ。
初めての道尾秀介作品です。
読んだのは『N』。
とても評判のいい小説でしたので、文庫版を手にとってみました。
『N』の特徴
まず、本の装丁がとても目を引きます。
ネイビーを基調とした表紙で、真ん中の大きく「N」があります。
さらに特徴的なのが反転文字が添えられているところです。
「N」の上に「エヌ」とルビがあるのですが、「N」の下部に反転文字で「エヌ」とも書かれています。
作者名も正立したものと、倒立したもの両方が書かれています。
そういえば「N」はひっくり返しても「N」ですね。
とても目を引く本なので、ジャケット買いした人もきっと多いのではないでしょうか?
そして、パラパラとページをめくっていると、信じられないようなことに気がつきます。
なんと、文字が反転して印刷されているのです!
「印刷ミスか?」
と疑わざるをえません。
ただ、しばらくしたら反転していないページに戻ります。
かと思えば、また反転している。
いったい何なんだ?
実は、これがこの作品の特徴なのです。
6つの章
『N』は全部で6つの章で構成されています。
通常の小説ならば、第1章から、1ページ目から順番に読み進めます。
至極、当たり前のことです。
しかし、『N』はこの常識を覆します。
6つの章、どこから読んでもいいのです。
本の最初に、それぞれの章の最初1ページだけが集められています。
全部で6章あるので、計6ページです。
それらを読んでみて、一番読みたいと思った章から読むことができるのです。
その章が何ページから始まるか書いてあるので、その章を読みます。
読み終えたら再び最初の6ページに戻って、次に読みたい章を選んで読み進めます。
これを繰り返してすべての章を読みます。
「短編集じゃないのに、こんな読み方をして小説として成立するのか?」
そんなことを私は思っていました。
しかしこれが成立するのです!
しかも物語として面白い。
本当に衝撃的な作品です。
作者は、いろんな読み方をおすすめしています。
先述したとおり、一番気になった章から順々に読む。
特に選ばず、最初から順に読む。
あえて後ろから順に読む。
直感で読む章を選ぶ。
じっくり吟味して読む章を選ぶ。
ちなみに読み方のパターンは
6!=6×5×4×3×2×1=720
720通りの読み方があります。
これにはびっくりですよね。
読む人によって、物語の捉え方や感じ方が変わるのは、どの作品にもあると思います。
さらにそこへ720通りのパターンが存在するなんて。
読書感想会なるものがあれば、きっと盛り上がること間違いなしです。
それぞれの章には、タイトルがあります。
- 「名のない毒液と花」
- 「落ちない魔球と鳥」
- 「眠らない刑事と犬」
- 「笑わない少女の死」
- 「飛べない雄蜂の嘘」
- 「消えない硝子の星」
の6つです。
このブログを書いていて気がつきましたが、すべてのタイトルが8文字かつ名詞です。
これらのタイトル、冒頭の1ページを読んでみて、気になった章から読み進めることができます。
実はこれらの章の物理的なつながりを断つために、あえて章ごとに反転して文字が印刷されていたのです。
もし電車やバスなどで『N』を読んでいたら、他の人からは本を逆さまに持って読んでいるとみられるため、変人だと思われるかもしれませんね(笑)
ここで、私の読み方をご紹介します。
私は、
①「落ちない魔球と鳥」
②「眠らない刑事と犬」
③「笑わない少女の死」
④「飛べない雄蜂の嘘」
⑤「名のない毒液と花」
⑥「消えない硝子の星」
この順番で読みました。
選んだ基準は、冒頭部分をしっかり読んで面白そうか、この先の話の展開が気になるかどうか、です。
謎解きやミステリー、頭脳戦や心理戦が好きなので、それらのにおいを感じたものを先に選びました。
また、SFやぶっ飛んだ設定より、日常的で徹底的なリアルが好きです。
人の繊細な心理描写などにも惹かれがちなので、そういった理由からこのような順番になりました。
読後所感 ※この先、若干のネタバレ含む
各章で登場した人物が、別の章でチラっと登場したり、別の人物視点で物語が進んだりなど、人物同士のつながりがとても鮮やかです。
張り巡らされた伏線が全て解けたような、爽快感すら覚えます。
前に読んだ章と、一見なにも関係がなさそうに思っても、実はつながっていたりするので、ある意味ミステリー要素らしさも感じました。
深く語られらず、謎が多いと思っていた人物であっても、別の章でフォーカスがきちんとあてられ、生い立ちや過去がわかるので、謎が解けるような気持ちよさがありました。
私は一番最初に読んだ「落ちない魔球と鳥」が一番好きでした。
港にある倉庫の壁でずっと投げ込みの練習をしている高校球児が主人公です。
練習内容は、落ちるボールの代名詞、フォークボール。
ただ彼が投げるフォークはまったく落ちない。
この球児、野球が上手くありません。
2つ上の兄が地方大会決勝まで進むような実力者で、その兄の決め球がフォークボールだったのです。
しかし、決勝で負けた兄は自宅で首を吊って自殺します。
衝撃的です。
そんな練習姿を釣りをしながら見ている「ニシキモ」さんと、1羽のしゃべるヨウム。
このヨウムは口が悪く、ひどいことを言ってきます。
一連の出来事を、死んだ兄のSNSアカウントで発信する高校球児。
それに怒りを覚えた先輩ピッチャーが球児に詰め寄りますが、その場面を目撃する中学の英語教師。
ヨウムをボートで追いかける、球児とニシキモさん。
ヨウムの飼い主である高3の受験生と会いますが、どうやら様子がおかしい。
ヨウムをペット探偵に依頼していた受験生。
そのペット探偵のきな臭さ。
ペット探偵に内密で依頼することになった警察官。
きりがないのでここまでにしますが、たくさんの人物が登場し、それぞれの人物が輻輳的に絡み合うストーリーが味わえます。
この作品の大きな特色として、
「自由」
「枠に囚われない」
の2つを私は感じました。
本は最初から順に読むものという固定観点を覆した作品です。
読み手によって720通りのストーリー展開があるなんて、ロマンを感じます。
小説も日々進化しているのだと感じました。
しろあと
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