住野よる『君の膵臓をたべたい』を読んでみた

読書

こんにちは。

しろあとです。

今回の記事は書評シリーズ。

住野よるの『君の膵臓をたべたい』を読んでみました。

タイトルにかなりインパクトがあって印象的です。

一見、タイトルだけでは何の話か全くわかりませんが、読了する頃に意味がわかる感動大作です。

作者のデビュー作ということもあって、当時話題になりました。

私はずっとタイトルだけは記憶に残っていたものの、手に取る機会がなかったので今回、思い切って読んでみました。

ジャンルはヒューマンドラマ。

ほのかに恋愛のかおりもする作品です。

人の生き死にといった死生観、人とのつながりがテーマになっていると感じました。

あらすじ

主人公は高校2年生の山内桜良(やまうちさくら)と、同じく高校2年で同じクラスの男子です。

桜良は膵臓に病気を抱えていて、余命が1年しかないというところから始まります。

桜良は余命宣告されているのにも関わらず、学校では天真爛漫に振る舞う人気者です。

病気のことは家族以外、誰にも知られないようにして残り僅かな人生を過ごそうと企てます。

しかしある日、病院で彼女の闘病日記である『共病文庫』を待合室に置いてきてしまいます。

そこにあらわれたのが同じクラスの男子。

彼は何の気なしに、その共病文庫の中身を読んでしまい、彼女が膵臓の病に侵され、余命がわずかなことを知ってしまいます。

そして、あろうことか、共病文庫を読んでいるところを、桜良に目撃されてしまいます。

秘密を知られた桜良、秘密を知ってしまった彼の不思議な関係が始まるのです。

ストーリーは高2男子目線の語りで進行していきます。

しかしこの高2男子、名前がないのです。

正確にいうと名前はあるものの、作中では「●●」と塗りつぶされていたり、

「ひどい●●」

「暗いクラスメイト」などと、表記されていたりするのです。

そしてこれらの呼称は、わざわざ【 】のかっこでくくられています。

高2男子の呼称は、作中場面での彼の立ち場や周囲の人間の気持ちに応じて、その都度その都度変化します。

人見知りな一面が出ているシーンであれば、「暗いクラスメイト」。

ある人にとって癒しの存在として映れば「優しいクラスメイト」。

このように名前が最後までわからないのが斬新な設定でした。

読後所感 ※この先、ネタバレを含む

涙が止まらなくなる感動大作です。

まず桜良の初期設定が残酷ですよね。

膵臓の病気で余命1年。

誰にも知られずに生涯を楽しく終えようと、毎日をいつも通りの自分で過ごす姿はとても生命力を感じました。

「自分だったら同じようにふるまえるか?」

そう考えたら自信ないです。

そして共病文庫を読んでいた彼。

桜良とは正反対の性格である彼に興味を抱き、残りの人生を彼と仲良くすることに決めます。

この彼は人見知りで、学校では誰とも話さない陰キャ。

ずっと小説を読んでいて近寄りがたい人間でした。

しかし、桜良は1年後に確実に死ぬ自分に対しても特別視することなく、淡々とドライに接する彼と過ごす時間に居心地のよさを覚え、彼の内面についても理解し始めます。

作中、桜良と彼との軽快なボケとツッコミのやりとりが頻繁に出てくるのですが、このやりとりがブラックジョーク過ぎる!

すぐに生き死にの話になります。

「さっさと死ねばいいのに」

「まっどうせ死ぬんだけどね」

といった具合にブラックが過ぎるのですが、その点は桜良の明るさと彼の淡々とした物言いで全く暗い雰囲気を感じさせず、思わずクスっと笑ってしまいます。

最初は何も感じていなかった彼ですが、桜良とのさまざまな体験や交流を通じて、どんどん人間味を増してきます。

彼は桜良からいろんなことを教えてもらいました。

もうすぐ死ぬそんな彼女のことを、何も思っていなかったところから、

「君の膵臓を食べてその病を治し、君にもっと生きてほしい」

と思い始めるようになります。

数値の異常があり、急遽入院した桜良。

退院したその日、桜良と彼は待ち合わせするのですが、いつまでたっても桜良は現れません。

直前までメールでやりとりしていたのにもかかわらず。

彼はそのやりとりで、「君の膵臓をたべたい」 と送っています。

しかし、彼女はもう死んでいたのです。

寿命まではもっとあったはず。

退院できるということは、まだ死なないはずだったのに。

桜良は通り魔被害に遭い、殺害されていたのです。

彼は桜良の寿命が1年というわずかではあるものの、まだ続くものだと思い込んでいたことを後悔します。

てっきり膵臓の病気で死を迎えるものだと思い込んでいたのです。

まさか余命1年の女子高生が通り魔で亡き人になるなんて思いませんよね。

彼は10日間放心状態で、桜良の通夜にも葬式にも出席しません。

そんな中、ふと『共病文庫』の存在を思い出します。

彼女の家に赴き、彼女の母と初めて顔合わせします。

そこで、桜良が膵臓の病にかかっていたこと、『共病文庫』の存在を知っていることを彼女の母に伝えます。

すると泣き崩れる母。

実は生前、桜良は『共病文庫』という言葉を知っている人物が来たら、その人物に『共病文庫』を託してほしいと伝えていたのです。

『共病文庫』を初めてしっかりと読む彼。

そこには彼女の苦悩や葛藤、彼との出会いでさらに色づいた楽しい毎日が赤裸々に綴られていました。

このシーンは、文字だけを追っていても号泣してしまうくらい感動シーンです。

それと同時に現実世界に生きる私も、刻一刻と迫りくる死をまさまざと感ざる負えませんでした。

いつか人は死ぬ。

当たり前のことを突き付けられる、そんなシーンです。

『共病文庫』の後ろのほうには彼女の書きかけの遺書も残されていました。

そこにはもちろん彼への気持ちや想い、希望などが書かれています。

彼は桜良の気持ちや想いを知って号泣。

そして希望を叶えるべく、元来の彼の性格では決してしないようなことに着手しはじめます。

作品全体の構成は、序盤は暗く重い場面設定、中盤は桜良と彼の交流、終盤は感動的場面といった具合に区分されます。

ムードやテンションの揺れ幅が大きく、感動をぐわんぐわんと揺さぶられる作品だと思いました。

人は誰しもあと1年で死ぬなんてことをつゆにも考えていないでしょう。

しかしいつかは必ず来る。

明日かもしれないし、1時間後かもしれない。

そう考えたら一瞬一瞬の時間を大事にすべきだと改めて感じました。

いつ最期が来てもいいように、毎日を全力で楽しむ。

今この瞬間を生きることを今後も継続していきたい、そんな気持ちになりました。

しろあと

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