こんにちは。
しろあとです。
今回は読書書評シリーズです。
読んだのは宮島未奈による大人気の成瀬シリーズです。
シリーズ完結作となる『成瀬は都を駆け抜ける』を読んでみました。
過去にも成瀬シリーズは記事にしています。
成瀬あかりという少女が自由奔放に生きていくストーリーが軽快で読みやすく、人気を博しています。
そんな成瀬シリーズも第三作目となる本書がシリーズ完結作ということです。
とても残念ではありますが、むやみやたらに伸ばせばいいというものでもありません。
さっそく2025年12月1日、発売日当日に書店で購入し、読んでみました。
あらすじ(※ネタバレ含む)
京都大学に合格し、大学入学式を間近にしたところから物語は始まります。
しかし、最初のページからしばらく成瀬は登場しません。
最初は京都大学に合格し、地元神奈川から京都に下宿することになった坪井さくらという少女の目線で物語が進んでいきます。
坪井には神奈川にいた小学生時代から恋焦がれる男子がいました。
その男子と高校まで同じ学校にいました。
坪井はその男子に想いをきちんと伝えることなく、ずっと心に秘めています。
さて、今後の進路を決めるとなったとき、坪井はもちろんその男子と同じ大学への進学を試みます。
男子の志望校は京都大学とのこと。
幸い、勉強ができた坪井は京都大学に合格を果たします。
しかしここで問題が生じます。
なんと男子は京都大学に合格していません。
落ちたのかと思われましたが、先生に聞いてみると男子は進路変更し、無事東京大学に合格したとのことです。
坪井は失意のどん底に落ちます。
そんな状態を引きずりながら、下宿先の京都に移り住みます。
もう生きる意味を失った坪井でしたが、そこで成瀬と出会うのでした。
坪井のマイナス思考もメンヘラ発言も飄々と受け止める成瀬に対して、坪井は自分と何から何まで異なることに衝撃を覚えます。
自分がこれから何をすればいいか成瀬に聞いてみると、成瀬の返答は「料理」とのこと。
毎朝、必ずハムエッグを自作して食べている成瀬を見習って、坪井もまずはハムエッグに挑戦します。
紆余曲折を経て坪井は料理の腕を上達させ、成瀬とも親交を深めていきます。
場面変わって続いては同じく、この春に京大生になった梅谷という男子大学生目線の話です。
入学早々、過激ともいえるサークル勧誘の波をくぐり抜けた梅谷の前にあらわれたのは、1つの達磨です。
あたりを見渡すと、屋外にもかかわらず炬燵に入って鍋をいただいている男3人に出くわします。
男ら3人は達磨研究会という謎サークルであるというが、その実態は簡単にいうと作家・森見登美彦の読者ファンでした。
活動内容はこたつに入りながら鍋を食べる、週1で部長の家で論評する、最終的にはみんなで桃鉄をする、極めつけは森見登美彦の代表作『夜は短し歩けよ乙女』に出てくる黒髪の少女に出会う、というものです。
まさに京大生らしい活動内容?といったところです。
そんな中、自転車に乗る練習をしていた成瀬とそのアシストをしていた坪井が、達磨研究会と知り合うことになります。
成瀬は京都を極めるという目標を立て、部長からもらった京都ガイドマップに掲載された名所100選をすべて制覇すると決めます。
まず手始めに部長宅近くにあるスポットに、成瀬と坪井、達磨研究会で巡ることになります。
地元が京都大学近くの梅谷は、たとえ地元であっても気がつけなかった小さな発見に感銘を受けます。
漫然としていた梅谷は次第に達磨研究会に居心地のよさを感じて、行動をともにすることで居場所を見つけるのでした。
京大生の話だけではありません。
立命館大学在籍中の「ぼきののか」こと田中ののかは、何かを大きなことをしたいと考え、大学生協にあった簿記のテキストからヒントを得て、簿記系YouTuberとして人気を上げていました。
野外でYouTube ライブを行っていたところ、出くわしたのが京都100選巡りを実行中の成瀬です。
カメラに映りこんだ成瀬に視聴者は思いのほか盛り上がりを見せます。
そんな中、ぼきののかにアクシデントが起こります。
「簿記2級受かってない!!」
ライブ中、ぼきののかに向かってそんな野次が浴びせられました。
実はぼきののか、簿記2級を公言していたものの、実は不合格で資格を持っていませんでした。
野次の主を見ると、たしかに試験会場でぼきののかの席の近くにいた男です。
おそらく自分の席からぼきののかの受験番号を推測し、合格者番号一覧をみてぼきののかが不合格であることを確信したのでしょう。
YouTuberとして、ぼきののかは炎上することになります。
誹謗中傷を浴びせられるぼきののかは、成瀬にアドバイスを求めます。
成瀬はしっかりと謝罪することと合わせて、簿記2級に再挑戦して嘘を本当にすることを勧めます。
そんなわけで、ぼきののかだけではなく、成瀬や坪井などみんなで簿記2級を受験することになります。
みんなで試験勉強している様子をYouTube ライブで流したりしていると、やはり視聴者が気になるのは成瀬の圧倒的存在感です。
キャラが立ち過ぎている成瀬に興味津々です。
浴びるようなコメント質問に成瀬は淡々と答えていきます。
なかには誹謗中傷も含まれていますが、それに対しても淡々と答える傍若無人っぷりです。
受験結果ですが、さすが京大生というべきでしょうか、成瀬が98点、坪井が94点と高得点の中、ぼきののかは70点台とギリギリの合格。
無事、ぼきののかは簿記系YouTuberとして名乗れるようになるのでした。
本シリーズでは成瀬の母にも焦点が当てられています。
滋賀のみで放映される地元の有名人を取り上げる番組コーナーで、成瀬を取り扱うことになりました。
内容は成瀬の一日に密着する、成瀬の親にインタビューするというものです。
成瀬は幼少の頃からなにかと目立ってメディアにも取り上げられていてカメラ慣れしているものの、一方の母は1時間弱のインタビューでも緊張が隠せません。
そんな中、成瀬の母がふと思ったのは、成瀬が小学校時代の担任との三者面談です。
成瀬のこういう性格に対して、きっと面白く思わない大人もいることでしょう。
当時の担任は成瀬の協調性や社会性を問題視しており、母に対して苦言を呈していました。
そこで成瀬の母は一言、
「そういう子なので」。
無事、密着取材とインタビューを終えた成瀬家は、オンエアに合わせてテレビをみんなで囲みま す。
和やかな雰囲気の中、成瀬が口にしたのは三者面談における「そういう子なので」です。
当時、まだ小学生だった成瀬にも、母の言葉は印象的で記憶に残っていたのです。
成瀬は母のその言葉が自分のすべてを受け止めてくれていたような感じがして、うれしかったようです。
成瀬家のストーリーが良くわかる回でした。
場所が移りましては広島県。
前作の百人一首全国大会にて成瀬のことが気になりだした男・西浦は、成瀬に会えるかもしれない一縷の望みをかけて、京都の大学を受験し合格します。
当時スマホをもっていなかった成瀬とは、約2年にわたって手紙を交換し合う文通という形でやりとりを進めていました。
大学生になり、スマホを持つようになった成瀬とも未だに連絡手段が文通である西浦は、成瀬への好意を抑えることができず、自分をどう思っているのか問いただす旨の文面をしたためます。
だが、冷静になって読み返すとだいぶ情熱的で恥ずかしい内容になっていると気がつき、代わりにマイルドな文面の手紙を書き直し、成瀬に郵便で届けます。
ここで思わぬ事態が発生。
誤って最初にしたためた恥ずかしい方の手紙を成瀬に郵送してしまうのです。
西浦はスマホで成瀬に手紙が届くと思うが誤りであるため返却してほしいと送信します。
了承した成瀬は京都駅のミスドで西浦と待ち合わせることになります。
手紙を返却したのも束の間、その日の成瀬は超多忙。
ひょんなことから成瀬に随行することになった西浦。
18時過ぎの雰囲気ある時間帯に2人きりになった西浦は、成瀬に告白しようと言葉を口にします。
しかし、そこで成瀬の視界にあらわれたの達磨研究会。
成瀬を一途に想う西浦の気持ちはまだまだ続きます。
最終章は、なんと成瀬が入院しているところからはじまります。
何事かと思えば、ほっと一安心。
1泊2日で退院予定の盲腸でした。
成瀬からのSOSを受けたのは、成瀬にとって唯一無二といっていい友達、島崎みゆきです。
島崎は成瀬とお笑いコンビ・ゼゼカラを結成し、M1グランプリの予選にも出場しています。
もとは膳所(ぜぜ)にある成瀬と同じマンションに家族で住んでいましたが、今は家族ごと東京で生活しています。
SOSを受け取った島崎はすぐさま成瀬のいる病院へと向かいます。
道中、さまざまな場所やもの、人に出会い、地元のなつかしさに浸る島崎ですが、面白いことにどれもこれも成瀬と結びつくものばかりです。
感傷にひたりつつも、入院中の成瀬と対面した島崎。
成瀬から託されたのは、「びわ湖大津観光大使」を代理で務めて欲しいというものでした。
びわ湖大津観光大使は、前作にて同世代の篠原かれんと一緒に成瀬が務めることになった観光大使です。
就任期間は1年間ですが、実は明日が就任期間中の最後の大仕事になるとのことです。
その職務とは、京都からびわ湖疏水船(そすいせん)に乗って大津港まで戻ってくるというものです。
仕事に穴を開けられないと考えた成瀬は、信頼できる島崎を代役として見込んだのでした。
自信のない島崎でしたが、成瀬が観光大使にかける想いを汲み取り、代役を買って出ます。
翌日、島崎は成瀬仕様に作られたちょっときつい観光大使の衣装を身に付けて、京都のびわ湖疏水船乗り場で仕事をします。
経験したことのない仕事や慣れない対応に四苦八苦していた島崎。
篠原かれんのアシストがありつつも、もうダメかもと思ったその時、成瀬あかりが登場するのです。
島崎はヒーローが登場したかのごとく安心します。
観光大使のタスキを本来の持ち主に返却しようとすると、篠原が気を利かせて成瀬と島崎で観光大使の仕事をまっとうするよう促します。
結果的に、成瀬と島崎がびわ湖疏水船に乗り込み、乗客らと一緒に大津港へ向かうことになりました。
船上でのクルーズを乗客とともに楽しんでいると、橋や岸には本作で出会った見覚えある人たちがいます。
無事、大津港にたどり着くと、みんなが大集合しています。
まるで桃鉄の目的地到着のようなお出迎えです。
所感
以上、長くなりましたが私が覚えている限りのあらすじを書き連ねました。
いや~まるでジャンプ作品を読んでいるかのように、成瀬というミステリアスな存在に魅かれて仲間がどんどん増えていく描写が最高でした。
第1篇の冒頭では全く成瀬が出て来ず、何なら大津でも滋賀でも関西でもない神奈川を舞台にした坪井の話だったため、一抹の不安を覚えました。
しかし、成瀬は常にだれかの目の先にいるもの。
入学式では和装をして、用がなくても観光大使衣装を身にまとっています。
本作では成瀬の存在に救われた人がたくさんいます。
冒頭の坪井もそうでしたが、特徴的だったのは成瀬のより身近な存在である母やゼゼカラ相方の島崎に焦点が当たったことです。
成瀬の自由奔放っぷりに振り回されることは何度もありましたが、結局、みんな成瀬が好きで、次は何をするのかわくわくしているのです。
過去作を回想するような、伏線を回収するような描写、しっかりとつながりを意識したような背景描写などがたくさんあり、多くの人が登場してきたんだなあとしみじみと感じました。
私がとくにお気に入りだったのは、達磨研究会との出会いで成瀬が京都100選を巡ると決めたところです。
私自身、やりたいことをリストアップして全制覇を目指して邁進するのが好きなので、成瀬の心意気がとてもよく共感できました。
ガイドブックに掲載されている行きたいところ100個すべてに付箋を貼っていき、訪れたら付箋を剥がしていく成瀬の姿が目に浮かびます。
びわ湖疏水船が記念すべき100個目であり、大津港に到着したときの付箋100個目を剥がす、 シーンは感動しました。
面白いと思ったシーンは、簿記系YouTuberぼきののかが登場する篇です。
不正をはたらいたぼきののかが炎上し、謝罪動画を撮ったとはいえ事はなかなか収まりません。
その後YouTubeライブを撮るたびに誹謗中傷がコメント欄に必ず入ってきます。
動画には成瀬も出ているのですが、そのコメント一つ一つに律儀に返答するのが成瀬という人間です。
「よく眠れた」
「米と鮭」
「まだ死なない」
などと、成瀬は発言していました。
おそらく、「昨日はよく眠れた?」「朝は何食べたの?」「死ねよ」などの視聴者コメントに一つ一つ返していたのでしょう。
まだ死なないという成瀬の返答がツボでした。
私はシリーズ全3作を通して、成瀬あかりという人物が心底うらやましいと思いました。
人の目をまったく気にしない、何事にも動じない、やるべきことを毎日ちゃんとやる。
人生をよりよく生きるにあたって、これ以上ない素晴らしいエッセンスを兼ね備えています。
もしも子ども時代に成瀬のような強い意思や考えを貫けていたら、自分の人生は今と全然違っただろうなあと、ちょっと後悔すら憶えました。
私も成瀬が公言しているように、200歳まで生きるのを目標にしたいです。
成瀬シリーズが本作で完結なのがほんと残念で仕方ありません。
ぜひアニメ化、映画化してほしいところです。
映画化なんてことになれば、ロケ地はもちろん大津と京都になるでしょうから、盛り上がるこ
と間違いなしです。
しろあと



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