こんにちは。
しろあとです。
先日、仕事の関係で感覚統合に関する研修を受けてきました。
研修の内容は、主に子どもの感覚についてと、その発達や特徴についてです。
療育施設で実際に療育をされている作業療法士の方が研修講師でした。
感覚統合という言葉も、作業療法士という仕事も、知らないことだらけでしたので、せっかくの機会ということで受講してきました。
今回はその研修の内容を、私なりにまとめて備忘録にするとともに、皆さんにも知っていただければと思います。
作業療法士とは
作業療法士はOTとも呼ばれています。
昭和40年に国家資格試験が実施されています。
最近できたなかなか新しい資格なのですね。
日本作業療法士協会が定めた作業療法の定義があるのですが、なんと定義化されたのは2018年とのこと。
今現在も変化しつづけている業界のようです。
日本にOTは11万8千人いるそうです。
熊本県にある八代市の人口が11万7千人ちょっとなので、ほぼ一緒です。
作業療法士は、その半数以上が医療機関にいます。
あとは老年期の対象とした介護施設などです。
子どもの発達をメインに活躍しているOTの数はとても少ないようです。
なお、福祉領域だと診断がついていない人を対象にすることがほとんどのようです。
事の発端は第二次世界大戦にさかのぼります。
戦争にあたって、兵士が
「疲れた」
といったところから作業療法が始まりました。
そもそも作業とは?
日常生活すべての行動が、作業です。
作業は大きく5つに分類されます。
・日常の身の回りの作業
トイレ、入浴、着替え、睡眠など。
・家事などの生活を維持するための作業
調理するために買い物に出かけるなど。
・仕事などの生産的作業
一般的なデスクワークや接客業のほかに、畑仕事なども含まれます。
・趣味などの余暇的作業
・地域活動などの作業
ボランティア、礼拝などのお参り。
日常生活のあらゆる行為が作業ということになるようです。
また、余暇的活動であっても大人と子どもでその性質は異なります。
大人でいうところの余暇は、レジャーや娯楽といった意味合いが強いです。
一方、子どもの余暇は遊びという性質が強く、友達と身体を動かしたり、会話をしたりなど、経験が少ない分、遊びが学びにもなっています。
P-E-O モデル
作業療法士の重要な考え方のひとつに、P-E-Oモデルがあります。
P-E-O とは、人(Person)、環境(Environment)、作業(Occupation)の頭文字をとっています。
作業療法士がどのような視点で作業を評価しているのかというモデルです。
人とは、人が持っている特性や能力のことです。
・粗大運動
・巧緻動作
・生活動作
・コミュニケーション
などの視点から評価します。
環境とは、本人を取り囲む環境のことです。
・座席配置
・レイアウト
・教室の環境
・机や椅子
・文具
・集団状況
などの視点から評価します。
作業とは、取り組むべき作業のことです。
・学習
・移動
・食事
・着替え
・排泄
・掃除
・余暇活動
・集団活動
などの視点から評価します。
子ども分野における作業療法
作業を通して発達を促すことを目的として行われます。
発達領域は、遊び、学び、暮らしの3つです。
・遊び
運動、認知、情緒や社会性を遊びの中で育む
・学び
学習や学校生活の土台となる力を育む
・暮らし
食事、排泄、着替え、入浴などの生活動作を安定して行えるように身体をうまく使う力を育む
子どものおける作業療法は、上手にできることを目標とはしていないようです。
保護者からは上手にうまくやることを望む声があがるようですが、そこは重要視していません。
作業療法士が扱う主訴
食事
- 手づかみ食べをする
- 箸がモテない、握り持ち
- 食べこぼしが多い
- 偏食
排泄
- オムツが外れない
- 清拭動作ができない
入浴
- お風呂を嫌がる
- 顔が濡れることを嫌がる
着替え
- 靴、靴下が履けない
- 下着がいつも見えている
- ボタン、ファスナーが苦手
- 特定の服を着たがる
- 着脱動作が難しい
その他
- 遊びが続かない
- 縄跳びや鉄棒が苦手
- 折り紙が苦手
乱暴
- 物を壊す
- 落ち着きがない
- 集中力がない
- 筆圧が弱い
- 姿勢が悪い
特に最後の姿勢が悪いについては、ほんとに多い主訴のようです。
作業療法士は何を見ている?
OTが着目するポイントは以下のとおりです。
・姿勢
座る、立つなど。
・運動
歩く、走る、ジャンプなど。
・協調運動
スキップ、縄跳びなど。
・手指操作、上肢操作
掴む、握る、持ち直す、腕の動き
・道具操作
箸、スプーン、ハサミなど。
・身辺動作
食事、着替え、トイレ、歯磨きなど。
・感覚の受け取り方、処理の仕方
聞き取り、質問紙などによって。
・知覚、認知能力
・コミュニケーション
日常生活のほぼすべての動作をつぶさに見ていることがよくわかります。
一瞬の隙もないくらい、見ていますね。
感覚統合
ここからは本題となる感覚統合の話です。
感覚統合とは、複数の感覚を整理したり、まとめたりする脳の機能のことです。
アメリカの作業療法士、エアーズ博士によって用いられました。
たとえば、キャベツを購入する場面考えてみます。
スーパーの生鮮売り場にいくと、たくさんのキャベツが積み重なっています。
その中から、より新鮮でおいしいキャベツを選びます。
キャベツの良し悪しを調べるには、キャベツを見る、触る、持ち上げるなどといった作業をすることでしょう。
そのような作業を通して、鮮度や大きさを確かめたり、重さを確かめたりしています。
そういった作業をすべて完了し、最終的に購入するキャベツ1つを決めます。
キャベツ1つを決めるという行為の中に、重さ、大きさ、鮮度を確かめるために見る、触る、持ち上げるといった種々の感覚情報を利用しています。
また、職場や学校の教室にいるとき、モーター音や他人が出す音は無視して、人の話し声を優先して聞くなども感覚統合です。
聴覚情報の中でも、話し声の優先度を上げ、その他の優先度を下げるという感覚の整理が行われています。
感覚の受け取り方は、さまざまな状況において大きく変化します。
例えば二日酔いの日は、普段だと気にならないような他人の些細な話し声がやけに気になってしまうことがあります。
また、風邪を引いている日にシャワーを浴びると、シャワー圧がいつもよりも強く、痛く感じられることもあります。
感覚の種類
感覚は5感+2感の計7つであると認識されています。
よく知られている5感は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚です。
この5つのほかに、前庭感覚と固有感覚があります。
5感+2感という分類がよくなされますが、別の視点からとらえることもあります。
それが「意識的に意図して使うか」「無意識に使うか」という視点です。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚は意識的に使い、触覚、前庭感覚、固有感覚は無意識に使うとされています。
感覚統合の発達は、聴覚、前庭感覚、固有感覚、触覚、視覚が積み重なることで進んでいきま す。
触覚
感覚を受け取る場所は皮膚です。
・危険を察知して身を守る
感触、温度、痛みなどを察知して、危険を感じると手を離す。
防衛的な役割を果たす。
・素材の違いを触って区別する
レシートと硬貨が混じっているポケットの中から、硬貨だけを取り出す。
認識をする役割を果たす。
・心地よさを感じる
泣いている子どもの背中をさすったり、抱きしめたりすると落ち着きを取り戻す。
・自分の身体の地図を把握する
身体の輪郭や大きさ、長さなどを捉える
前庭感覚
回転や重力、バランスを司ります。
感覚を受け取る場所は、耳の奥の方にある三半規管などです。
・覚醒を調整する
眠い時に頭を振って目を覚ます
・重力を感じる
重力に負けず、身体を持ち上げて姿勢を保つ
・バランスをとる
身体の傾きを感じる
身体の軸を知る
・目の運動をサポートする
くるくると回ると目が回るように、前庭感覚と目を動かす筋肉には関連がある
・自分の身体の機能を把握する
どのくらいまでなら身体が傾いても姿勢を保てるか
どこまでジャンプできそうか
固有感覚
力を入れるときに機能します。
感覚を受け取る場所は、筋肉や腱です。
前庭感覚と固有感覚はセットで動いていることが多いです。
・力を加減する
重さや動きの大きさを感じて、加減を調整する
・運動をコントロールする
ゆっくり動く
・自分の身体の機能を把握する
どのくらい、どのように身体を動かすことができるかを知る
・持続的に姿勢を保つ
重力に負けずに、身体を持ち上げて持続的に姿勢を保つ
・バランスをとる
転ばないように筋肉を調整して姿勢を保つ
・情緒を安定させる
緊張している時の貧乏ゆすり、イライラしている時に奥歯を強く噛むなど
乳幼児の運動発達と感覚
乳幼児の運動発達を例に、感覚についてみていきましょう。
まずお腹の中にいる胎児期は、羊水にぷかぷか浮かんでいるため、重力すら感じていません。
この世に誕生することで、まず重力(前庭)を感じます。
重力に対して身体を起こそうとします(前庭)。
さまざまなものを見ようとします(視覚)。
手で床を押します(固有)。
フローリングや絨毯なの違いなど手で床に触れて確かめようとします(触覚) 。
このように、出生してすぐにあらゆる感覚を感じることになります。
ボディーイメージ
自身のボディーイメージができていると、身体の輪郭や動かし方がわかり、思うように身体を操作することができます。
たとえば、職場や学校などで、デスクとデスクの間を自分が通ることができるか否か、といった場面でボディーイメージが発揮されます。
細身であると自覚し、このくらいの隙間なら通れるだろうと思って実際に通れることもあります。
一方で、最近太ってしまい、通れると思って通ろうとしたら突っかかってしまい通れなかった場合は、ボディーイメージに誤りがあったということになります。
つまり、ボディーイメージとは、身体地図の把握(触覚と固有感覚)と身体機能の把握(固有感覚と前庭感覚)の両輪が重要になってきます。
感覚の受け取り方
感覚の受け取り方について、4つのタイプに分類されます。
2(気づき)×2(反応・行動)の高低によって分けられます。
・感覚過敏(気づき高・反応低)
気づきやすい
・感覚回避(気づき高・反応高)
気づきやすいため、自ら感覚から逃れようとする
気づきが高い感覚過敏と感覚回避タイプは、感覚刺激を過剰に感じ取ってしまうため、不安感や不快感を抱きやすい傾向にあります。
例えば、
- 蛍光灯が眩しい
- 物が雑多だと集中しづらい
- 環境音で気が散る
- 特定の味や匂いが苦手
- 汚れることが苦手
- 触られることが苦手
- 不安定な場所を嫌がる
などの様子を呈することがあります。
このようなタイプの対策は、苦手な感覚を取り除く、減らすのが原則になります。
子どもの場合だと工作をしている時、でんぷんのりで手が汚れてしまうのを嫌がる子がいたとしたら、でんぷんのりではなくスティックのりを使わせるなど、不快になる物を取り除くことがひとつ考えられます。
・低登録(気づき低・反応低)
何事にも気がつきにくく、反応しづらいです。
例えば、
- よくぶつかる
- ぼーっとしている
- 声かけや周囲からの音に気づきにくい
- 臭いや味の違いに気づきにくい
- 暑さや寒さ、痛みなどに気がつきにくい
- 身体を動かすことへの意欲が低い
などの特徴があります。
対策としては、強弱や緩急など、メリハリをつけて関わることが大事です。
また、興味や関心のある活動、好きなキャラクターを用いるなどして、イメージを持たせやすくすることも有効です。
声かけに全然気がつかない子に対しては、後ろから声をかけるのではなく、必ず子どもの視界に入って声をかけたり、手で肩を叩いて触覚に訴えかけてから声をかけるようにします。
・感覚探求(気づき低・反応高)
気づきにくいため感覚を入力したく、自ら感覚を求めます。
例えば、
- 光るおもちゃや回転するものが好き
- 大きな声で叫ぶように話す
- 匂いを嗅ぎたがる
- 味の濃いものが好き
- おもちゃを舐める
- 人や物を触りたがる
- 物の扱いが雑
- 揺れる、走る、飛び跳ねるのが好き
などの様子が見られることがあります。
対策としては、子どもの好きな感覚を特定し、その感覚を多く入れることが大事です。
欲しい感覚の要求をしっかり満たすことで、逸脱行動を防ぐことができます。
発達障害でよく見られるつま先歩き
つま先歩きは固有感覚を強く入れやすいです。
ずっと身体を緊張させている方が、身体全体が安定する人もいるようです。
そのため、つま先歩きをすることで力をぐっと入れて、身体の安定を保とうとする子どももいるようです。
つま先歩きは別に発達障害の子どもに限ったことではなく、健常児にもよく見られる現象のようです。
「身体の安定を求めるのが好きか」
「刺激を取り入れるのが好きか」
どちらがであるようです。
発達障害であってもそうでなくても、つま先歩きをする子どもに対しては、坂道を歩かせてみてつま先以外を使う機会を増やしてみるなど、さまざま部位を使わせてみるのが大事です。
まとめ
感覚は脳の栄養です。
積み上げ型の発達を辿るとされています。
発達の段階に応じて、感覚の整理が大事になってきます。
感覚情報と覚醒の関係性について、覚醒を上げる感覚がありすぎても、下げる感覚が多すぎるのも考え物です。
覚醒レベルは低すぎてもぼんやりしてしまいますし、高すぎても興奮してしまいます。
パフォーマンスが一番高まるのは、低すぎず高すぎずのバランスの良い点です。
この点が最も学びにつながりやすいです。
子どもは自身や物事を理解し、行動するために様々な感覚(7感)を使っています。
感覚の受け取り方は人によって大きく異なり、不器用な子どもは自分の身体が分からずモニタリングすることが難しいです。
また個人の中でも、同一感覚であっても、物にとって受け取り方に違いがあります。
ブランコが嫌い(前庭)であっても、シーツブランコ(前庭)は好きだったりすることもあり、感覚のどれか一つがダメだとしても、ほかのすべてがダメというわけはありません。
ある感覚と別の楽しい体験をセットで提供するのが効果的です。
誰かが褒めてくれるからやる、他のみんなもやっているからやる、みんなが楽しそうにしているからやる、といったことを通じて感覚が育っていきます。
受講した感想
今回、私は作業療法士による感覚統合の研修を受けてきました。
感覚の中で5感という言葉はよく聞きますが、それらに加えて前庭感覚、固有感覚といった感覚は聞き馴染みがなかったので、これからは5感だけでなく7感の視点で人や物事をとらえたいと思いました。
また、感覚の受け取り方によって4つのタイプに分類できるのは、人を評価する際にとてもわかりやすい指標であると感じました。
このタイプをベースとして、個人内でも好きな感覚、苦手な感覚を特定することで、より解像度の高い評価が可能になる気がしました。
今後も講座や研修で学んできた有益な情報を発信していきます。
しろあと
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